<目次>
- マシンスペック
- 基板の配線
- 高速パラメータ
- キャンバー角
- 壁センサー配置
- 3Dプリント造形
- 吸引スカート
- 探索走行
- マシンの失敗点
- まとめ
【マシンスペック】
- 機体名:Aventa(アヴェンタ)
- 基板:1.0mm厚 (前期:黒, 後期:黄色)
- マイコン:RX631 (100pin)
- 壁センサー:IR発光ダイオード SFH-4550
- IRフォトトランジスタ QSD124(前壁用), ST-1KL3A(横壁用)
- ジャイロセンサー:MPU6000
- エンコーダ:AS5145B
- モーター:駆動用 φ8.5, 20mm(AliExpressで買い漁って選別したもの)
- 吸引用 φ10, 15mm(AliExpressで買い漁って選別したもの)
- モータードライバ:駆動用 DRV8835
- 吸引用 AO3400
- ギヤ(モジュール0.3):スパー70枚歯, ピニオン15枚歯, エンコーダ38枚歯
- バッテリー:LiPo 2S(7.4V)150mAh 30C
- 重量(g):78
- サイズ(mm):L85, W70, H30
【基板の配線】
プリント基板の設計はEagleを使いました。最近はバージョンがころころ変わるので、慣れた頃にまた新しいバージョンが出るという不具合が起こっています。
【高速パラメータ】
例年は全日本で使ったパラメータを詳しくまとめていますが、今年は走りきれなかったので細かいことは書きません。動画のパラメータは参考に載せておきます。
- 加速度:加速時17[m/ss], 減速時20[m/ss]
- 旋回速:
1.8[m/s]~2.2[m/s](訂正:この動画は恐らく1.7[m/s] ~ 2.0[m/s]のものでした) - 直進最高速:5.6[m/s]
- 加速度:加速時12[m/ss], 減速時15[m/ss]
- 旋回速:1.5[m/s] ~ 2.0[m/s]
- 直進最高速:3.0[m/s]
高速域の壁補正がうまく制御できておらず、3.5[m/s]以上の直進はフラつく時があります。斜め直進時は角度補正で走らせているので、5[m/s]以上でも安定して走れています。現状では壁補正を切って角度追従させたほうが安定するので、壁の追従制御が今後の課題です。 この点はニュートラルキャンバーの変速四輪が安定するため有利です。
【キャンバー角】
適度なネガティブキャンバー(以下「ネガキャン」)は美しいですよね。今作のマウスにはキャンバー角をネガティブ方向に3度つけました。ホイールだけでなく、モーターからエンコーダまで全て3度傾ける必要があるため、マシン設計が大変になります。ピタゴラスの定理を用いながら、モーターの高さ、車高の調整、自作磁気式エンコーダの軸合わせ等を行いました。ネガキャンにする利点と欠点は以下のとおりです。
<メリット>
- オシャレ、美しい、ロマン
- 高速旋回で接地面積を最大にする
- 荷重移動を味方にする
- 賢くトレッド幅の増加
<デメリット>
- 高速域の直進安定には制御の強化が必要
- 直進加減速で最大のグリップ力を発生できない
(結論、今年の全日本の迷路ほんとやめてほしい)
<高速旋回で接地面積を最大にする>
ネガキャンは見た目だけで、常時タイヤの接地面積が減って動力性能を落とすという誤解があるようですが、適切にキャンバー角をつけて高速旋回すると、ニュートラルキャンバーよりも接地面積が増加します。ここでポイントとなるのが高速旋回です。タイヤがヨレるくらい高速な旋回をしないと、接地面積は稼げません。実車の場合は横Gをしっかりかけてやらないと意味がありませんが、マウスの場合はタイヤがすり減ってくると、図のように偏摩耗します。
大げさに書いているので、”オシャレ、美しさ”から離れてしまっていますが、今は気にしないことにします。実際のマウスの偏摩耗具合を見ても、有効に広い面積を使えていそうです。
<荷重移動を味方にする>
旋回時荷重移動した際、片輪に荷重が集中します。このとき、荷重の乗った1輪のタイヤが旋回をサポートするように働きます。上図のAとBではBの方が円周が大きいので、1輪のタイヤでもタイヤ径に差が発生します。遠心力により重心移動をさせて片輪に荷重を乗せれば乗せるほど曲がりやすくなります。今作のマウスは、バッテリーを機体の中心に立てて乗せています。ネガキャンのマシンでは重心移動も旋回に有利に働くため、マシンをコンパクトにする方に注力しています。
直進安定性についてですが、直進時には両輪に同程度の荷重がかかるため、マシンが精度良く作られていて、制御がしっかりしていればブレることはありません。そんなうまいこといかないので苦労させられます。
<トレッド幅の増加>
トレッド幅を大きくしたければ、ホイールにスペーサを入れればいいだけの話ですが、キャンバー角を付けることによって、旋回軸の慣性モーメントを小さくしたままトレッドを広げることができます。トレッド幅を同じにした際、ネガキャンの方が重たいものを内側に寄せることができています。マシンの中心にモーター等が寄るので、その分のクリアランスを考慮する必要があります。
また、ネガキャンのホイールにスペーサを入れると、トレッド幅を広げると同時に車高を落とすことができます。マシンの様子を見ながら、ツライチになるまでスペーサを入れて車高を落としましょう。
<直進加減速で最大のグリップ力を発生できない>
理論上の利点は色々ありますが、あまり倒しすぎてもいけません。直進時は接地面積が減っている状態になり、直進加減速時で不利になります。タイヤを偏摩耗させて接地面積を増やした場合は直進安定性が悪くなります。クラシック競技の場合、加速度よりも旋回速を上げたほうが楽にタイムが伸びそうなので、適度なキャンバーは有利と判断して採用した次第です。ここは頑張って制御で補います。
【壁センサー配置】
横壁センサーの向きが少し特殊な配置をしており、なぜこんなことをしたのか質問を受けました。個人的に横壁センサー配置のポイントとしていることは、壁切れ位置と角度です。壁切れの位置は図の「壁切れポイント1-3」に示すとおり、大きく分けて3パターンに分けられます。
それぞれに利点と欠点があり、論争が起こる場所ですが、私は「壁切れポイント1」の柱より奥を見ています。このためには、センサーに大きな角度をつけるか、距離を離す必要があります。センサーに大きな角度を付けた場合を考えます。
図に示すように仮想センサー2を追加して、マシンに10度の傾きをつけてみました。この図から壁切れ位置が大きく影響されることがわかります。なるべくセンサーの角度は小さくしたいものです。
センサーと壁の距離は、遠すぎても近すぎても問題があります。遠い場合はセンサー値が低くなり、壁の読み違いが多くなります。この問題は、半値角が低く高輝度のLEDを採用し、フォトトランジスタに高精度なものを使用することにより、ある程度解決できます。この機体は前壁と横壁でフォトトランジスタを変えていて、横壁の方に高精度な物を使っています。近すぎる場合の問題点として、センサー値の飽和が挙げられます。壁との距離を近づけているはずなのに、センサー値が上がらない、逆に下がっていく現象のことです。LEDの発光量を減らすことである程度解決できますが、減らしすぎるとやはり壁の読み違いが起こります。
【3Dプリント造形】
モーターマウント、ファンマウント、ホイール、吸引ファン、シムリング、エンコーダの磁石ホルダ付きギヤ(モジュール0.3)をDMM.makeの3Dプリントサービスで製造しました。
材質はアクリルのウルトラモードの黄色で5,100円(送料込み)程度です。価格は高めですが、一般家庭用の3Dプリンタでは出せない精度で造形してくれます。クラシックマウスに使うとすぐ割れる等の噂があり不安でしたが、軽さと自由度の高さは魅力的なので、一度使ってから考えようと思い造形を依頼しました。やってみた結果、一度もハードが壊れることなくシーズンを終えました。意外となんとかなるものです。これはモーターが軽いことが効いていると思います。個人的には、モーターマウントにアルミを使うよりも、アクリルを使ったほうが曲がらなくていいと思います。割れたら交換すればいいだけの話なので。OB会の時に先輩方から、アクリルは湿気によって脆くなるという話を伺いました。CNCで切削できるものは、なるべくPOMを使ったほうが良いそうです。
【吸引スカート】
吸引スカートは2層構造になっています。1次スカートと2次スカートに分けられ、1次スカートには両面基板、2次スカートには秋月のチャック袋を使いました。生基板は決して軽くはありませんが、腹下に配置できるので低重心化を狙えるということと、基板の強度を上げてくれるメリットがあるので、あえて重い両面基板を用いました。
写真は製作途中のもので、1次スカートの内側の2次スカートをカッターナイフで切り抜きます。基板の裏面にジャイロなどの部品を取り付けているため、1次スカートの厚みは1.6mmにしましたが、少し分厚かったので次回作は薄くします。写真では写っていませんが、マシンの先端にもシートを張り、2次スカートが捲れないようにしています。吸引ファンの3Dモデリング画像も参考に載せておきます。
吸引力は動画のとおりです。Z軸の角速度をゼロにするようにPID制御をかけつつ、逆さまにしたりできます。この動画はTwitterで39,000件ほどのインプレッションをいただきました。
【探索走行】
今回実績を得たものはフル迷路全面吸引探索です。
これが全面探索を終えたログデータです。フル迷路では、吸引探索、全面探索共にはじめての試みでしたが、無事マップデータを作ることに成功しました。今回は安全をみて1.0[m/s]で探索を行いましたが、部室の16*8区画の迷路では1.3[m/s]の全面探索に成功しています。来年の地区大会では更に安定感を上げて、その速度でお見せできればと思います。
参考に1.3m/s探索の動画です。
今まで探索中の既知区間加速をやろうと思ったことがありませんでしたが、どうせ旋回速を上げるなら探索タイムも上げたいので、今後既知区間加速の実装も行います。
【マシンの失敗点】
<レギュレータの発熱>
今回の回路は約8Vのバッテリー電圧から3.3Vにリニア・レギュレータで降圧し、その電力でモーター以外を賄っているので、とにかく発熱が酷くて何度も火傷しそうになりました。レギュレータは降圧分の電力が熱に変換されて熱くなるので、変換効率がとても悪いです。そこで、手持ちのDC-DCに換装しました。
DC-DCはスイッチング電源なので、インダクタの内部抵抗やスイッチング損失程度の発熱しかありません。換装したことにより発熱が殆どなくなりました。配線が雑なので偶にマイコンのリセットがかかったり、断線したりします。
<重心バランス>
重心バランスはマシン設計のときに一番重要視する部分です。しかし、作ってみないとわからないところがあり、毎年マシンを思いっきり改変している私からすると、過去のマシンも参考になりません。設計段階で後ろ重心かなと思いながら製作し、更にDC-DCが後ろに乗った事により、少し後重心になってしまいました。吸引モーターに大きめのモーターを使っているのも、バランスをとるためです。吸引モーターを小型にした場合、基板の裏面に鉄板を貼り付けてバランスを取る必要があります。2輪マウスは重量バランスが非常にシビアです。次回作では、最初からDC-DCを搭載することを前提として重量バランスの整ったマシンを設計します。
<角加速度の上げすぎ>
2輪で重心バランスがある程度しっかりしているマウスは本当に素直に動いてくれます。探索程度の低速であれば角加速度を無限にしても走れます。しかし、そんな物理的によろしくない目標値を与えて調整しても、路面が少し低摩擦になるだけで制御が破綻してしまいます。部室の迷路は割とグリップできる路面だったので、そこで調整してもツルツルな板の上では走れません。完全に失敗でした。来年は角加速度を落として安全に曲がれる機体を持っていきます。
<壁センサーのキャリブレーション>
今までは最短走行時に壁切れができればいいな程度のアバウトな制御でしたが、今回から壁切れで距離補正を厳格化して走行するように制御を変えました。その変更が仇となり、会場の照明の違いで誤差が大きくなり、走らなくなったと考えられます。試走会で路面の問題なのか苦手パターンの問題なのかと悩んでいましたが、会場の照明の問題だった可能性があります。次回の大会までには会場で簡単にセンサー値をキャリブレーションする機能を実装します。
<全日本のパラメータ選択>
これはマシンの失敗点ではなく、私が全日本でやらかした失敗です。最短走行の1走目でコケたにも関わらず、2走目でパラメータを上げてしまいました。速い旋回のほうが入念に調整していたのでそれを使いましたが、スタートを切って2回目の旋回で姿勢が乱れてフェイルセーフがかかりました。そして最短3走目、モードを暗記できていなくてパラメータ選択をミスりました。来年は地区大会をできるだけ回って、人為的ミスを少なくするようにします。もしかすると、吸引の2次スカートが乱れていたかもしれません。そこを見直しておけばよかったと後悔しています。結局、最短走行の4走目は斜め走行をしない1.0[m/s]の小回りターンで完走しました。クラシックマウス歴3年ですが、斜め走行できなかった全日本大会はこれが初めてなので残念です。
【まとめ】
今年の全日本大会は悔しい結果に終わってしまいましたが、今までのマシンよりも遥かにハイスペックなものが作れたので良しとします。今わかっている失敗点は最低限改善して、次に備えたいと思います。そして今年からクラシックマウスは初級者向け(教育用)の競技として位置付けられてしまったようなので、マイクロマウス競技(旧ハーフサイズ)のマシンも製作していきたいと思います。
最後に今まで製作してきたクラシックマウスの集合写真で締めたいと思います。来年こそは吸引しながら斜め走行を決めたいです。